労働者健康安全機構 熊本産業保健総合支援センター

調査研究

平成15年度産業保健調査研究

熊本県における産業医活動実態調査

平成 16 年 3 月
労働者健康福祉機構 熊本産業保健福祉センター

 

主任研究者 熊本産業保健推進連絡事務所 所長 北野邦俊
共同研究者 熊本産業保健推進連絡事務所相談員 上田 厚 小柳敦子 廣瀬靖子
熊本労災病院 院長 宮川太平
研究協力者 熊本大学医学部保健学科 教授 原田幸一
熊本大学医学部保健学科 教授 上田公代
日赤熊本健康管理センター 医師(産業医)大森久光、野波善郎、 (技師)川島英敏
熊本産業看護研究会会員 岡村尚子、織田なほ子、甲斐玲子、瀬戸祥江、滝川恵子、中原倫子、中村雅子、松吉亜紀子、宮川麗子、梁井恵美子、横川涼子、吉田伸子、龍造寺明子、吉田伸子

 

  1. はじめに
     産業医は、事業場訪問、職場巡視、保健指導、健康教育、衛生委員会委員など、多彩な活動が求められ、原則的にそれらの活動は法的に規定されている。しかしながら、その活動は必ずしも円滑かつ効果的に実施されているとはいえない。また、産業の構造や作業の高度な技術化や職場の編成や雇用問題など、近年の労働者を取り巻く諸条件は急激に変化し、労働者の安全や健康の様態も従来の産業保健の知識や技術だけでは対応できない部分も出てきている。
     これからの産業保健活動を効果的に進めてゆくためには、産業医に対し、現行の産業保健活動の実践技術を向上させるとともに、産業保健活動に対する新たな視点と技術を獲得することが求められている。それは、最終的には、産業医個々がみずからの工夫や努力によって獲得してゆかなければならない自分自身の問題であるが、必ずしも個人の責任だけで解決すべき問題ではない。そのためには、その前提として、産業医および関連スタッフの職務満足度を高める産業保健活動のシステムや職場の環境が作らなければならない。
     そのような視点から、本研究は、産業医の産業保健活動の実態とその問題点や有効な解決策を明らかにするために、産業医活動の職務満足度とそれを規定する因子を評価するための調査表を開発し、それを用いた産業医活動の実態調査を企画した。
  2. 研究方法
     従来の本調査研究と同様に、産業看護職、産業医、その他の産業保健関連職種、保健師と本研究者をメンバーとするワークショップチームを編成し、グループワークにより、産業医活動の職務満足度とその規定因子を評価するための調査表を開発した。グループワークは、原則として毎月1回、合計 8 回実施した。
      また、青山京子保健師(静岡県金属工業健康保険組合)を招聘し、「中小規模企業の産業保健活動の実態とこれからの展開−産業医とのよりよい連携活動を求めて−」の課題で特別研修会(平成 16 年 1 月 31 日)を開催した(参考資料:付表 1 )。

    調査表の開発にいたるプロセスは、以下のとおりである;
    1. 産業医の自己決定力/職務満足度を規定する構成要素の抽出
      ワークショップメンバーが各自、自身の経験や想いに照らし、産業医の職務満足度にかかわる要素をポストイットに書き出し、それを出し合い、 K −J法を用いて要素別にまとめた(フォーカス グループインタビュー形式)。
    2. 産業医活動に対する関係職種(従業者・産業看護職・産業医・企業主)の意識およびニーズの抽出
      ワークショップメンバーが産業看護職、産業医についてはそれぞれの業務の立場で、従業者、企業主については、メンバーそれぞれの業務の経験に照らして、4つの関係職種における産業医活動に対する意識およびニーズを書き出し、Tと同様の作業によりまとめた。つぎに、それぞれの項目のうち各メンバー自身に評価の高いものを 5 つ上げてもらい、それを集計して得票順に順位をつけた(デルファイ法形式)。
    3. 「産業医の活動とその満足度 (QWL) に関する調査表」の開発
      TおよびUの作業により抽出された項目を職務満足度とそれを規定する要素として整理し、プリシード・プロシードモデル(みどりモデル)の枠組みにまとめ、それに基づいた質問調査項目を設定し、調査表を開発し、予備調査を試行した。
  3. 結果と考察
    1. 産業医の自己決定力/職務満足度を規定する構成要素
      作業仮説として、産業医の職務満足度 (Quality of Working Life:QWL) を規定する因子とその構造を、図 1 のように設定した。それを基盤として、最初のグループワークによって抽出、整理された項目を、産業医の QWL (表1)、 QWL の基盤となる自己決定力を規定する要素(表2)、として、以下のようにまとめた。

表1.産業医の職務満足度職務満足度 (QWL)

 

◇総合評価(主観的自己評価)  
◇要素別評価(主観的自己評価)
  1. 産業医としての技術
  2. 産業医としての意欲
  3. 産業医としての身分/資格
  4. 産業医活動に対する賃金
  5. 産業医活動に費やす時間
  6. 職場巡視と事後処置
  7. 健康診断と事後処置
  8. 産業医としての企業からの評価(提言の受け入れ度など)
  9. 産業保健関連法規
  10. チームワーク

 

表2.産業医の QWL を規定する要素

 

  1. 産業医の主観的健康感
  2. ライフスタイル・習慣
  3. 産業医業務の心理特性
    • カラセクモデル(要求度/自由度)
  4. 産業医業務の要素
    • 健康診断/相談/指導/職場巡視/安全衛生委員会
  5. 職場の人間関係
    • 産業保健関係スタッフ/従業者/経営・管理スタッフ
  6. ライフイベント
    • 職場/家庭/医療
  7. 企業活動の特性
  8. サポート ネットワーク
    • 企業内
    • 地域・医療システム
    • 家庭

 
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